「猟装品選びの基礎講座」 その3

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このページには全日本狩猟倶楽部発行の月間狩猟雑誌、全猟誌の編集部よりご依頼を受けて作成されたもので、同誌に平成14年9月から11月にかけて掲載された記事の元原稿となったテキストを記載しています。記事、写真など、一切の無断転載を禁止します。


ナイフ

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いろいろな種類木を切るスキナータイプの勘違いお薦めの種類切れるとは最新鋼の話

小物紹介の欄で少しふれたが、刃物、ナイフに付いてもう少しふれてみたい。通常、刃物店やアウトドアーショップで売られているナイフや鉈(ナタ)について店員に尋ねても納得のいく返事が返ってくることは少ない。残念ながら、あまり詳しい人はいないと思っていい。どれが売れているか、どのサイズが適当かくらいは販売員としてご存知だが、その刃物の素材の特性や形状の意味、そして危険性についての情報など、少しふみ込んだ質問にはお手上げなのが現状だ。

刃物はどれもそんなに大きく違ったデザインは無く、刃の部分も同じような肌(表面)の色をしているので、絵画を選ぶのと同じで、どっちが良くてどっちが安物なのか、たとえ値札が入れ違っていても店員さえ気付かないことだってあり得るのだ。

私は仕事柄、ナイフとの付き合いは長く、深い。主に米国から有名メーカーの刃物を輸入、国内販売を行っており、米国向け高級ポケットナイフの輸出も主要な事業のひとつである。何年か前には100万本突破という、ミリオンセラーも経験した。つまり国内外の販売だけでなく、ナイフの生産の両方に携わり、海外の刃物事情にも一般の方よりは情報が多く集まる。ナイフについて書くとなると、本一冊をもってしても書き尽くすことが出来ないので、主要な部分を主にアウトドアー用スポーツナイフについて思いつくままに記述してみた。購入時の役に立てば幸いである。また以下の情報は今まで多くのプロジェクトを共に行っていただいた、カスタムナイフメーカーの北野勝巳氏、伝統工芸師で刀匠の池田辰男氏、株式会社ジーサカイのスタッフ、八田工業株式会社のスタッフ、その他の方にご伝授いただいたことが多く含まれている。



シースナイフとフォールディングナイフ:
ナイフには大きく分けて二種類の構造がある。シースナイフというのは包丁と同じで刃と柄が固定されており、鞘に収めてベルトなどにつるモデルだ。フィックスドブレードナイフとも言う。一本の素材から出来ており、強度があり、サイズも小さな物から大きな物まで作ることが出来る。ヒッティングといって、枝などをたたいて落とす作業などにも安心して使用出来る。

フォールディングナイフは折り畳みナイフのことで、使用時には刃を起こして(出して)使用し、使い終わったら折り畳む。刃に直接触れて行う為、危険が伴うという感覚があるが、少し慣れれば殆どのナイフが同じ要領で行えるので思ったよりは危険性は低い。加えて、移動中などの収納時は刃の部分が収まっているので、大きく転倒した時でも自分のナイフで怪我をすることが無く安全なナイフであるともいえる。馬に乗って猟をする米国では、落馬時に腰に携行していた大きなボウイナイフで太股を貫通する事故があり、州によっては大型ナイフを腰に携行しての乗馬を法令で禁じているところもあったくらいだ。折り畳みナイフは強度としては決してタフではなく、構造上直径2−3ミリのピンのみで固定されているだけなので、荒く使ったり、コジったりすると、刃が欠けるだけでなく、本体構造が破損することもある。全てのデバイスはその質量以上の作業は出来ないのだ。サイズ的にも限界があり、大きさの割には重くなる。解体に使用したりすると血液などが機械部分に残る。内部は洗浄しにくく、面倒だかなり念入りに洗浄しないと錆びが発生することもある。




ロックブレード:
刃を出して使用しているとき、何かの弾みで刃が戻って怪我をしないように固定する機能が殆どの折り畳みナイフについている。これがあると使用時の安全が約束される。ロックバックといわれる方式は刃の背の部分をハンドル内部で引っ掛け固定し、スイッチを押さないと折り畳めないようにしている方法。最も数が多く、信頼性も高い。ライナーロックと言われる方式は刃を出したときに板バネのような物が出てきて刃を内部で固定する。生産が簡単でコストも安く上がり、今急増している方式だ。最近のベンチャーナイフ企業は殆どこの方式をとっている。操作はどちらも慣れれば簡単で、ライナーロック方式はすぐに片手で刃の出し入れが出来るようになる。折り畳みナイフは機関部があるので、塩分を含んだ物を切った場合などは水洗いをして、軽く機械オイルをつけておく必要がある。それはたとえステンレスナイフでも同じで、ステンレスは錆びない素材ではなく、錆びにくい鉄なのだ。

刃物と工具:
全ての可動物は必ず壊れる可能性があり、そして必ずある部品は消耗し、劣化する。全ての折り畳みナイフがこの仲間だ。刃を可動させる機関部を持つ以上、破損の可能性がある。肝心なときに壊れることもありうるのだ。折りたたみナイフは使用前の手入れと点検をしたほうがいい。また、刃物全般は分類上、手動利器という分野に入る。人の手にもって使用する器具なのだ。ナイフの種類にかかわらず、それ以上の入力を加えてはならない。プライアーなどでナイフをはさんで力を加えたり、食い込んだ刃の上からハンマーでたたいたりというのは論外で、悲しい結果になるだけでなく、想像以上に危険である。

また、当然では有るがナイフは刃物であるので、切る以外の方法には使用できない。つまり切る為に働く力以外の入力にはものすごく弱いのだ。私が米国のメーカーで働いていた頃、カスタマーセンターで最も多い修理依頼はナイフでペンキの缶を開けようとしたら刃が折れたというものだった。こじるという動きに刃物は大変弱い。あっという間に欠けたり折れたりする。加えて折り畳みナイフは修理できないのでそれで寿命となる。刃物は工具ではないのだ。もし工具として携行するならスイスアーミーナイフは秀逸だ。あれほど精巧な部品精度を持ったツールは他に無い。こだわって言うならハガネの貧弱さからナイフという分野ではないと思っているが。

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木を切る:
指定キャンプ場でテントを張るなら別だが、日本でアウトドアナイフを考える以上、木を切る、枝を払うという作業をのけては考えられない。しかし勘違いしてはいけないのは立ち木を倒したり、薪を割ったり、全ての枝を払って進むなどということはナイフには出来ない。

倒伐や刈払い作業はいまやエンジン式のもでいい物がたくさんあるが、それらの作業はナイフを使用するものとは全く別のものだ。ココでいう木を切るというのは前進の妨げになる枝やちょっとした場所を確保するための作業、焚き火のためのに落ちている枝を半分に折るために切り目を入れるとか、大きな作業でも直径10センチの物になるとノコギリの方が早くて楽になる。

これらの作業にはある程度の刃渡りのあるシースナイフか鉈が有効だ。強度を稼ぐ為に刃の厚み(刃厚)のあるものが多いが、まず手にとって安全を確保した上で振ってみてほしい。どっしりと重く感じたらやめておこう。とても繰り返し使えない。もし手にしたときはそんなに重くないが、振ったときに加速するような感覚があれば、それは枝払いなどのヒッティングには最適だ。肝心なのは単純重量ではなくバランスなのだ。ランドールの#12という有名なボウイナイフがある。全長35センチの大物だが、大変軽くしかも振ると加速してその切断能力は高い。加えて抜群のハンドル形状により手の大きさにかかわらず、疲れずしびれず、使っていて恐さが無い。15万もするナイフだが、力学的に考えられた結果優れた刃物はこうなる。

鋼を鍛えて作る鍛造ナタの世界ではもっと高等な技術が使われる。柄に近い刃の根元よりも刃先のほうの厚みを厚くするのだ。これにより、全体重量は軽く、ヒッティングによるパワーは遠心力の助けを得て強大となる。これは手打ち刃物ならではの技だ。僅か15センチの刃渡りにもかかわらず、倍以上のナイフと同じ仕事が出来る。またこのサイズの刃物は料理やちょっとした作業にも使用できる大きさでもあるので、実用性は高い。刃の部分には青紙2号という炭素鋼を使用し、軟鉄でそれらを挟み込んだ三層構造で、耐久性もあり、いつまででも切れ味が落ちないような錯覚に陥るほど良く切れる。これはいつも私が山に持って入るお気に入りで、もう10年は使っている。和鋼と打ち刃物の技術は奥深い。また使用者にもたらす恩恵は計り知れない。




スキナータイプの勘違い:
一時カスタムナイフがもてはやされ、高価なモデルが多く売れた時期がある。その頃流行ったのがスキナータイプというモデルで、本来は解体時、皮を剥ぐときに使用する目的で作られた薄くて刃の幅が広めのナイフだ。高価な毛皮に穴をあけてしまわないように細心の注意を払って皮剥ぎをする為の薄刃のナイフだ。

実際に日本でスキニングをする方はごく僅かに限られると思われるが、よく売れていたらしい。もてはやされたのは見かけが大変美しいナイフで、流れるような優美な曲線は造形美という言葉を思い起こさせる素晴らしいデザインだった。そのときの売り込み文句が「最も優れた刃物で、これ一本で何でも出来る最高級ナイフ」といった物だった。美しさだけで無く、刃物としても優れているといってしまったのだ。その後これを信じ込み、枝を払ったり、大木に刃を突っ込んでみたりと、いろいろなエピソードが聞こえてきた。多くのユーザーがその結果を見て目を疑い、落胆した。刃は折れ、または曲がり、美しいラインはどこにも無かった。

広く多用途に使用できる物をオールパーパス(多目的)ナイフと呼ぶが、スキナータイプは薄い皮か肉しか切ってはいけない。一時はスキナーナイフだけで小屋を立てることも出来るような馬鹿なコピーで売られていた物も有ったが、これは笑い話にもならない。原木から小屋が完成するまで、機械化される以前の時代に製材所や大工達が使用していた刃物の種類だけでも膨大な数になる。あらゆる形状、大きさの刃物を経て製材となる。それをカッターナイフと大して変わらない刃しか持たないナイフに出来るはずが無い。もしあなたがその種の高級ナイフをお持ちであれば、それは引き出しに仕舞って眺める物と決めておいたほうがいい。スキナーナイフは肉切り包丁にはなってもオールパーパスナイフからは最も縁遠いナイフなのだ。

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お薦めのナイフの種類:
日本のアウトドアにおいて、そろえるべき刃物としてお奨めできるのは、まず少々の枝くらいなら払うことが出来る大型のナイフかナタ。これは前出の通り、刃渡り20−25センチのもので、刃の硬度は軟らかめ、ステンレス鋼で、お奨めはV金10号といわれるものが高価だが素晴らしい。この種のナイフの刃は欠けたり折れるより、曲がってくれるほうがいい。ハンドル形状は振ってみたときにしっくり来る物で、手が濡れているときや、手袋をして使用するのかどうかも考えて選ぼう。鞘はとにかく頑丈な物がついているのがいい。ナタの鞘には木製の物が付いている物もある。

和鋼を使用したナタもいいだろう。しかしこの種のナタには笑ってしまうほどの粗悪品や、勘違い商品があふれているのも事実だ。最初の作業で欠けて使いもにならない物もなる。信頼できる物をそれなりのところで購入する以外いい物に出会えないのかもしれない。いいナタは炭素工独特の食い込みのよさと刃持ちのよさがある。いわゆるアマ切れといわれるやつで、硬度が軟らかいにもかかわらずよく切れるのだ。杉やヒノキなどの針葉樹程度なら殆ど砥ぎ直すことなく続けて作業してもまだ大丈夫だ。それくらい本物の和鋼は凄い。炭素鋼のため、錆びは出やすいが、黒く錆びたようになっても使用上なんら問題なく、料理に使わない限り気にしなくていい。赤く食い込むような錆びにならない限りたいしたことではないのだ。それにもあまる和鋼の素晴らしさは数字や強度テストでは現れない何かがあるように思う。これもいい仕事がされた本物のナタだからである。

柄の形について、ナタの場合は大変仕上げが荒く、素手では痛くなる物が多い。このあたりはユーザーに不親切で、ある方に聞くとこれも伝統的にそうなのだそうだ。自分で皮ひもを巻いたり、ヤスリで角を削ったりして使っている人が多い。すり割といわれる方法で柄の中央を割った部分に刃を固定されている物が殆どで、これがハンドルを握りにくくしている大きな原因だ。大阪の堺には焼きこみといって、真っ赤に焼けたナカゴを柄の中に焼きこむ方法がある。包丁王国ならではの技法だ。この方法を用いると内部での腐食を止めることが出来、なおかつ握る部分に金属が出ておらず、手の汗で錆びることも無ければ、握り具合も優しくナイフのように扱える。日本の伝統技術の素晴らしさだ。

間違ってはいけないのは、軍隊用に開発された、またそれらを真似たモデルはあまり使えないということだ。以前米国で作られたコンバットナイフには主にシベリアでの戦闘を想定された物やベトナムで実際に使われたものがあり、それらのコピー物が多く出回っている。訓練を受けた者が限られた特定の目的に使用する為にデザインされた物はコレクター商品としてはいいのだろうが、日本の野山で使用する多目的ナイフとしては不具合な事が多い。


よく背の部分にノコギリのような物が付いてるサバイバルナイフといわれる物があるが、あれは本来航空機から緊急脱出するときに航空機の機体であるアルミ合金を切る為の物か、高圧電流が流されている有刺鉄線、または凍てついた氷を砕く物だ。木を切るなら安物でもノコギリのほうがまだましだろう。波刃が付いているのはロープなどを緊急時に早く軽い力で切れるようにしたアイデアで、切すべりを防ぎ、刃渡りの長いナイフを素早く引切りするのと同じ効果を小さなナイフで得られるようにした物だ。一方戦闘用ナイフの波刃は切傷の表面積を増やすことで皮膚を破壊して多くの出血を促し、治癒を遅らせ、確実に短時間で殺傷する為の恐ろしいアイデアらしい。専門家は刺してから押し上げ、捻ってからひねるように抜くのだそうだ。

話のついでに加えると、猪猟などでトドメを刺すときにダガーナイフ(特殊部隊用突き刺しナイフ)は秀逸だ。ぐっと入れたら中でかき回すように少し動かすといいらしい。セレイション(波刃)が内部で神経を切断し、慌てて何度も刺すよりも効果的だ。少し血なまぐさくなりすぎた・・

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次にお薦めとして、刃渡り10センチ刃厚2ミリほどのステンレス刃の折り畳みナイフが、あればいい。これはポケットに入れたりポーチに入れて腰につけておけ、常に携行する刃物としてあらゆる場面で役立つ。いろんなメーカーから販売されてる最も競争の激しい部門だ。値段の幅も広いので、いくつか試してみてもいい。また日替わりで持っても面白い。

刃の鋼材はステンレス系のもので、代表的なものとしてATS34、 440C、425A、6A、銀紙1号などは有名だが、それ以外にもいい鋼はある。ハンドルは合成樹脂系やカーボン、天然素材の鹿角や木が使われていて、好みで選べばいい。ただ天然素材の場合は時として劣化、縮み、変形がありうるということ、ゴムを使った物はいつかは軟化し寿命が来ることを覚えておこう。ヒモ通しの穴があいているほうがこれくらいのサイズのものなら便利だろう。ナイフを収めてベルトなどにつけるポーチは皮製やナイロン製がある。ナイフの素材に真鍮やニッケルシルバーが使われている場合は皮鞘に入れるだけでゆっくりと腐食してしまう。皮はなめす時に多量の塩につけるため、少なからず塩分を含んでいる。また一度濡れると乾燥まで時間がかかり、その後硬化しやすくなるのでひび割れたりといろいろ大変だ。その手入れが楽しいという方は別として、実用性としてはナイロン製の物がいいだろう。

折り畳みナイフの代わりとして、刃渡り15センチほどのシースナイフを腰につけてもいい。より本格的な装備となる。刃厚は3ミリ前後の薄い物でよく、中間的な存在として、ある意味オールパーパス(多目的)な用途に使える。腰につけての抜き差しには少し注意が必要だ。また周りに人がいるときも慌てて抜き差しすると危ない。抜いたときは刃が下を向いているのでブーツに落とさないように、しっかりと握ってからさっと抜く。鞘に戻すときは慎重に鞘を切らないように探るように収納しよう。一度鞘を切ると切り筋が出来てしまい、そのうちに貫通することになる。皮鞘には登山靴などに塗る皮革用のオイルを絶対に塗ってはいけない。それらは皮を軟らかくし、シースを腰抜けにしてしまう。シースは硬くないといけない。鉄でもいいくらいだ。動物系のレザーオイルや防水オイルもやめたほうがいい。ひび割れ寸前でも硬いほうがいいのだ。今は強化シリコンガードを挟み込んだバリスティッククロス(シートベルトの素材)で編み上げたナイロンシースが主流だ。こちらのほうが劣化せず、安全で軽い。

料理には屋内外を問わず、実は包丁が最も使いやすい。キャンプだからといってアウトドアナイフで切ることは無いのだ。それなりの雰囲気なり、気分を味わうというなら別だが、何よりも安全に作業ができるのは包丁だろう。アウトドア用の包丁として、鞘付きの物が多く販売されている。中には出刃や刺身用の鞘付きもある。アウトドアナイフで調理するなら薄刃でヒルト(つばの部分)があまり出ていないのがいい。まな板に当たって手前部分が切にくいからだ。料理であれば前出のスキナーナイフでも使える。またその気分は十分味わえる。

料理の後は必ず水かぬるま湯で洗い流し、拭いておこう。折り畳みナイフで料理をした場合は忘れずに手入れをしたほうがいいだろう。

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切れるとは:
刃物で切ると物が切れるが、なぜ切れるのかご存知だろうか。簡単に言えばナイフの刃先の先端は実はノコギリのようになっており、そのギザギザが繊維や構造体を引っ掛けちぎり、結果として切れるということになっているのだ。このことから知っていただきたいのは、切る為には刃を引くなり押すなりして動かすことだ。のこぎりを力強く押し付けても切れないのと同じだ。

最も鋭い刃がついているのは恐らく刺身包丁だろう。高価で軟らかい食材を崩すことなく切る為に、最も細かい刃をつけられたあの長い刃渡りを全て使って切る。最小の切り込みトルクで切断するのだ。これで切断面が美しくなり料理も旨くなる。しかし刃先は細かいとはいえノコギリ状になっているので、目の間には食材の小さなカケラが残っている。だから板前さんは何度も包丁を布巾で拭く。レストランのシェフが使っている肉切り包丁はもっと粗い刃がついているが、その刃先の目に肉の脂肪分が巻きついてしまい、刃先が滑って切れなくなってしまう。そこで砥ぎ棒で包丁をこすり、刃先に付いた脂肪分をコキ落としているのだ。あれは研いでいるのではない。タッチアップという作業だ。

だからステンレス系のナイフを研ぐときには和鋼を使った包丁のように横に砥ぐだけでは刃は立たない。縦方向にノコギリの目に当たる形状を作らないとアウトドアナイフとしての切れ味は出てこない。ステンレス刃の場合にはクロームの成分が多いせいで滑りやすく、刃立てしにくい場合もあるが、セラミックやアーカンサス砥石などを使えば食い込むように研ぎやすくなる。


ひとつ最新の刃物素材の話を最後に:
ナイフ用の鋼材としては需要量が少なく、大メーカーが毎年研究した最新鋼を発表ということにはならない。専門メーカーもあるが、ナイフ用のみに開発されることは稀だ。いまや有名なATS-34も、元はジェットエンジンのタービン用に開発された耐熱鋼だし、粉末鋼もコンパクトディスクをプレスするために開発されたものだ。刃物鋼はそれらの転用となる。

ヤスキハガネで有名な日立金属工業は世界的に技術の高い特殊刃物鋼メーカーである。各有名メーカー髭剃りの替え刃は殆ど日立金属製だ。発祥は島根県の安来地方。昔から優秀な砂鉄が多く採れ、加えて火を保つための森林資源が豊富にあった。世界的にも稀に見る好条件が奇跡の合致をしたおかげで、日本には日本刀という優秀な刃物が生まれた。バイキングなどがもっていたあの大きなナイフは刃物技術の低さを物語り、重量と物量、加えて体力で叩き割っていたのに比べ、日本刀はあの細さ、薄さ、軽さでありながら人体を袈裟切りにするほどの能力があった。この伝統的な刃物鋼の技術は今でも受け継がれている。


その日立金属の最新の粉末特殊合金工を使ったナイフがある。ZDP189という品番のこの鋼は本来、電気髭剃りなどの精密刃物部品、原子力発電所の主要部分のボルトや固定用ステイなど、複雑な形状にもかかわらず強度が必要な特殊な部品に使用する為に開発されたものだ。熱処理により刃物鋼として素晴らしい性能をあらわす。刃物は通常、硬くするほど良く切れるのだが、すぐに欠けてしまう。軟らかくすると刃は欠けないが、すぐ切れなくなる。この日立のZDP-189は硬度がHRC-67(通常の刃物はHRC−52前後)という驚異的な高硬度にもかかわらず、粘りがあり、対ショック強度が抜群なのだ。

この鋼を硬度の違う刃物鋼で挟み込み、三層構造として特殊な切り刃を持った究極のハンターナイフがある。アルティメットハンターというモデルだ。左右非対称の切り刃を持つ刃先は通常のV字型切り刃よりも片面がハマグリ刃に近い形状で、食い込む力と食い込みすぎて刃欠けしないように滑らす力とがうまく融合する形状になっており、結果として鋭い刃先にもかかわらず、粘性が高く、刃欠けしにくくなっている。伐採後の乾燥したカラカラの竹をえぐるように切ってみると殆どのナイフは刃が欠けるか、刃がめくれてしまう。ところがアルティメットハンターですると面白いようにえぐれるのだ。本来えぐるという曲線状に切る方法はナイフには厳しい使い方なのだが、これほど耐久性が刃先にあると問題なくできてしまう。

ナイフのことについて付いていろいろと書いてきたが、とどまるところが無いのでこのあたりで筆を置く。ここまで衣料品や小物、通販やナイフに付いて記述させていただいた。その内容の多くがお客様や緒先輩方から教えていただいたことで、全てを私一人で経験、会得したわけではない。

冒頭にも述べたが広範囲にわたっていろんな気候、地形、自然が存在するこの国で、「何が一番か」などという論議は成立せず、いわば私が記述したことも誤りとなることが無いとも限らない。また多くの読者が十分な経験者であられ、衣料品やその他の物についても私より良くご存知で、もっといいアイデアをお持ちであるに違いない。ご意見やご感想などがあれば謹んで承り、勉強させていただきたいと考えている。

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