アルティメットが刃欠けしないワケ
アルティメットは硬度が高いにもいかかわらず、刃欠けしにくく、通常では考えられないほどの粘りを併せ持っています。今までの概念では、硬度の高い、硬い鋼は当然のこと粘性、粘りがなく、刃欠けしやすいというのが常識でした。生産にかかわったスタッフも当然この理論を待ったままこのプロジェクトをスタートしました。ZDP鋼にこのプロジェクトよりも以前からかかわっていた北野氏を除いて。
しかし実験を繰り返していく内に、私を含め、ほとんどのスタッフが今までの概念を変えざるを得なくなります。無垢状態のZDP189に最適の熱処理を施すことで、通常のVエッジに仕上げられたナイフでさえ、ATS34やその他の鋼材に比べて、高い粘性をあらわすのです。耐衝撃性に関しても同じことでした。かなりの驚きでした。
写真提供 ワールドフォトプレス
何故このようなことが出来たのか。まずZDPそのものの性質にあります。極小粒子で作られた粉末合金鋼であるZDPは、その分子構造が見事なまでに均一化していることで、鋭い刃先となる先端部分においても均一な成分がちりばめられている為、炭素同士がダマになってボロッとかけることがないのです。中でも189はZDP鋼の中でも特に粉末分子の細かい素材で出来ています。また通常の刃物鋼でなく、合金鋼であることから一般の刃物とは同一視できない特殊な性能があるのです。
本来ZDP鋼は複雑な形状をした部品で、しかも強度的にかなり負担がかかる部分に使用される為に開発された合金です。たとえば電気シェーバーの刃の部分や、原子力発電所の複雑に曲がった角度を持つステイ、肝心かなめの部分のボルトやナット、ワッシャーなどに使用されています。これらは日立金属の安来工場にも展示されています。今までの鋼では形状的に生産が無理な物や、それでいてかなりの負荷がかかる所、衝撃を受ける所など、過酷な所に使われる合金なのです。
言い換えれば、そういうところに使われてこそ重宝される超高性能な合金であって、アルティメットハンターのように板状にして刃をつけただけの単純な形の物とするにはもったいないほどの性能を持っている素材なのです。それに刃物として最適な熱処理を施せば本来の耐久性が十分に発揮され、刃物鋼としては驚くべき性能を発揮しています。しかしこれはZDP鋼にとってはさして不思議なことではなく、当然の性質を発揮しているだけなのです。
次に北野エッジの効果があります。本文でも記述しましたが、切り込む角度を持った切刃の面と、食い込んでしまって力が飽和状態にならないように滑りながら逃げていく角度と曲線を持った面とで構成されていますので、構造的な強度が平凡なVグラインドされた今までの刃物とは物理的に強度が優れています。
あるオブジェクトが強度を持っているかどうかを見るときに、それを構成している素材の面から判断することと、構造面、形状面から判断することが出来ます。アルティメットハンターの場合、素材面、構造面ではZDP189をATS55で挟み込んだ三層鋼ですので、ZDP鋼だけでも驚異的な強度があるにもかかわらず、それを三層構造にすることでより構造面から見た強度も大変有利になっています。しかもサブゼロを実行した上で最適な熱処理を釜を占領して施しておりますので、現時点で考えられる最良の方法をとっているといえます。
また形状面からも北野エッジの効果によりその強度はさらに安定した物になっています。これらの相乗効果により、結果的に驚くべき硬度を持ちながら、刃欠けをおこさないナイフが完成したのです。
アルティメットが持っている高い性能は、ただZDP鋼を使うだけで発揮されている物ではないのです。素材の性能を奥深く研究したうえで、最適な切刃構造と熱処理が施されて、初めて可能となっているのです。
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